【書評】吉本ばなな『TUGUMI』
皆様、こんにちは!
いこいのさとです。
自粛が呼びかけられる毎日ですが、いかがお過ごしでしょうか?
私は在宅勤務をはさみながら、細々と働いております笑
さて、先日、吉本ばななさんの『TUGUMI』を読み終わりましたので、感想をお話ししたいと思います。
なんだか、当分書評の記事ばかりになりそうです…大好きな美術館巡りも、ただいまの状況ではなかなか気軽にはできません。
こんなときには、やっぱり読書ですね!
といっても、実際にはネットサーフィンとYouTube視聴ばかりしているんですが…笑
ちなみに吉本ばななさんは、一度「よしもとばなな」さんに改名されたのち、再び「吉本ばなな」さんに改名なさっているそうです。
一度目のご改名は存じておりましたが、また「吉本ばなな」さんになられていたのは存じませんでした。
『TUGUMI』あらすじ
語り手は女子大生の白河まりあ。海辺の町で育ったまりあには、つぐみという強烈な従妹がいました。つぐみは町一番の 美人だけれど、とにかく性格がひねくれていて口が悪いのです。横暴な振舞いでたびたび母親や姉の陽子を泣かせるのですが、一方でつぐみはかなり体が弱く、幼い頃から熱を出して寝込むことも少なくありませんでした。
まりあは大学入学を機に東京へ引っ越していますが、夏休みに一人で故郷へ帰ってきます。そして、旅館を営むつぐみたちの家に滞在することになりました。
好き放題に周りを振り回すつぐみ、そんな妹をいつでも優しく包み込む陽子、しばしばつぐみに腹を立てながらもやっぱり可愛いと思ってしまうまりあ、そして独特の魅力を放つ大学生・恭一の出現…。
まりあたちにとって、決して忘れることのできない宝石のようなひと夏が幕を開けます。
【書評】
つぐみと一緒に過ごす人たちは大変だろうなぁ…って思いました。笑
つぐみはとにかく悪態ばかりついていて素直じゃないので、周りの人は泣かされたり苛立たされたりしてばかり。私個人としては、つぐみに大して魅力は感じないのですが、彼女の姉の陽子は好きです。優しくておおらかで、でもしっかりと注意すべき時はして、立派な人なのです。
ごめんなさい、これ以上特に感想という感想はないです…。
名高い作品ですが、私の心にはそれほど響きませんでした。でも、インターネットで他の方のご感想を拝見していると、何度も読み返して味わっていらっしゃる方もおありのようです。あらすじというよりも、この作品に漂う雰囲気が懐かしくて、また本を開きたくなるのかもしれません。
村上春樹ファンの方にも、そういうタイプの方がたくさんいらっしゃるような…私の勝手な印象ですが。笑
「この世界観をまた味わいたい!」
「あの独特の空気が癖になる!早く新作を読みたい!」
こんなふうに思ってくれるファンを勝ち得るなんて、素敵ですよね〜。人を惹きつける独自の風味を確立されている証拠ではないでしょうか。
私にも、あらすじよりもそのムードが好きでたまらないという小説があります。
それは鈴木三重吉の『桑の実』です。
これといって何も起こらないままお話は流れてゆくのですが、ヒロインのおくみをはじめ、みんな穏やかで癖がなくて、ただ一日一日を生きている市井の人たちの姿が、なぜだか慕わしく癒されるのです。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
お体を大切に、お過ごしください。
【書評】『ロリヰタ。』嶽本野ばら(後編)
皆様、こんにちは。
いこいのさとです。
いかがお過ごしでしょうか。
今回は、嶽本野ばら作『ロリヰタ。』収録の短編、『ハネ』について感想を綴ります。
物語の核心・結末にふれることもあるかと思いますので、まだお読みでない方はご注意ください。
『ハネ』あらすじ
ヒロインは高校生の女の子。毎週末、ロリータファッション を身にまとい、Vivienne Westwood MANの大きな紙袋を抱えて、表参道に出かけます。彼女がひとり露店で売るのは、羽。ワイヤーで枠をつくり、鶏の羽を貼りつけ、ランドセルのように背負える天使の羽です。そして彼女自身もやはり、そんな手づくりの羽を背中につけていました。親に叱られ、近所の子供たちに「虫女」とからかわれても、彼女はその羽をつけて歩くのをやめません。なぜならそれは、最愛の人から贈られたプレゼントだったからです。
その人はクラスメイトの孤高の男子。美形で、女子たちの密かな人気の的でしたが、彼はいつでも一匹狼。誰とも親しくせず、ひたすら読書に熱中しているのです。彼に憧れ、彼のことを知りたくてたまらないヒロインは、彼の読む文庫本のタイトルの盗み見に成功します。ジャン・ジュネの『花のノートルダム』…。
翌日、さっそく渋谷の書店で同じ本を買おうとしているところで、偶然憧れの彼と出食わします。ヒロインもジュネに関心があることに親しみを覚えてくれた彼。そのまま二人は、原宿で初デートをします。ヒロインはもう有頂天です。
そしてヒロインの誕生日、彼は手づくりの羽をプレゼントしてくれます。
「君は人間から天使へとメタモルフォーゼするんだよ。その羽で」
どうせ可愛くないと自信をなくしていた自分を、天使だと言ってくれた優しい彼。感激して涙を流すヒロイン。急速に惹かれ合う二人でしたが…。
【書評】
切なくて苦しくなるような小説でした。
ヒロインの人物造形は、氏の有名な小説『エミリー 』のヒロインとよく似ています。
学校で孤立していたりいじめられていたりして、自分はブスだと卑屈になっていて、周囲に理解者はおらず、ひとりぼっちです。それでも、彼女たちには驚異的な芯の強さがあります。誰になんと言われようと、大好きな可愛いお洋服を日々身にまとい生きてゆくことは、絶対にやめない。好きなものは、他人に嗤われたって非難されたって、命がけで守り通すのです。
私はこのヒロインたちにとても憧れます。
好きなものがあっても、周囲の人に馬鹿にされると、恥ずかしいと思って大慌てでそれを引っ込めてしまう。子供の頃から、そんなふうに他人軸で善悪や可否や美醜を判断しようとし、振り回される弱さが私にはあるのです。私に限らず、そういう方はたくさんいらっしゃると思います。
彼女たちのように力強く歩めたら…と羨ましくなります。
そんなヒロインが、憧れの彼と精神的に出逢い、互いを認め合ってゆく描写はなかなかチャーミングです。手の届かない人だと思っていた彼とおしゃべりしていると、ときめきがとまりません。その様子が可愛らしいんですよね。
一方彼も、初めて心の通じ合った人であるヒロインを賛美し、とても大切にしています。彼なりの価値観や審美眼でヒロインを評価しているので、彼女が学校でどんな立ち位置か、みんなからどう思われているか、そんなことには一切頓着していないのです。思春期の友情や恋愛では、これは稀有なことではないでしょうか。
のちにヒロインは、大きな試練に見舞われます。そしてそのとき、痛みを共に分かち合ってくれる彼はもうそばにいません。
ヒロインの絶望は如何ばかりか…。
彼との絆の証である大切な羽たちは、警察官に文字通り蹂躙され、不良たちの悪質な犯罪に利用され、穢されるのです。
気丈な彼女は涙を見せませんでしたが、心は慟哭していたと思います。
ただ同時に、このくだりの彼女の声なきモノローグは、妙に冷徹で分析的です。だからこそ、凄味があります。もとより他人に理解してはもらえないという諦めと、なぜ自分が自分であるだけで迫害されなければならないのかという悲憤慷慨。その二つが激しく混じり合って、胸に迫ってくるのです。
そして彼女は、最愛の人との「永遠」を守り抜く道を選びます。たったひとりで。
私なら、違う道を選ぶと思います。私は彼女のように強い人間ではないからです。彼のことはもちろん忘れはしないけれど、自分のために、新しい世界を探そうとするでしょう。
しかし彼女は、自分のためだけでなく、彼のためにも生きたかったのだと思います。彼がいつも考え続けてきた「永遠」という問いについて、彼女が出した答えを、体現し証明したかったのではないでしょうか。
それほどすべてをかけて、彼を愛しているのですね。
でも私は、いつか彼女が、表参道に立つのをやめる日が来ればいいなと願います。
その形にとらわれずに彼を愛し続けることを見つけたり、また別の愛する人に出逢えたりしたなら、彼女はもっと深い幸せをつかめると思うからです。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
【書評】『ロリヰタ。』嶽本野ばら(前編)
いこいのさとです。
いかがお過ごしでしょうか。
嶽本野ばら氏の『ロリヰタ。』を読みましたので、前編と後編に分けて感想を綴りたいと思います。
核心や結末にふれることもあるかと存じますので、この作品をまだお読みになっていない方はご注意ください。
この本には表題作のほかに、『ハネ』という短編が収められています。
前編で表題作、後編で『ハネ』についての書評となります。
『ロリヰタ。』のあらすじ
主人公はある若手の男性作家。ロリータファッションに造詣の深い彼は、「乙女のカリスマ」と称され、若年層の女性たちから絶大な支持を集めています。
あるとき、主人公は一人のモデルの女の子と出逢います。年の頃は20歳になるやならずと思われる彼女は、ロリータファッションを特集する雑誌の撮影に臨んでいる最中で、スタイリストがコーディネートしたロリータテイストの衣装に身を包んでいました。しかし、彼女はこれははロリータではないと言い張り、撮影を頑強に拒むのです。ロリータに通暁する主人公は、その場で巧みにコーディネートし直してみせ、彼女は出来栄えに満足した様子を見せます。主人公のおかげでスムーズに撮影は終了します。
この出来事をきっかけに親しくなった二人は、連絡先を交換し、メールのやりとりをするようになりました。彼女は、撮影の仕事のためホテルに宿泊するたび、主人公を呼んで共に時間を過ごします。肉体関係はなく、キスをしたり、手をつないだりするだけ。睡眠薬を手放せない主人公は、彼女と一緒の時だけは、それも飲まずに安心して熟睡できます。
そんなある日、主人公は衝撃の事実を知ります。なんとそのモデルの彼女は、9歳の小学生だったのです。彼女と親密に過ごす姿を写真週刊誌にスクープされてしまい、袋叩きにあう主人公。正直に思いを綴った弁明の文章を発表するも、曲解されてしまい、世間からのバッシングはやみません。
彼女に恋をしていると自覚した主人公でしたが、こうなっては、もう二度と逢うことは出来ません。それでも、彼女は必死で彼を求めるメールを送ってきます。苦しい選択を迫られた主人公は…。
【書評】
考えさせられる小説でした。
成人と小児の性愛は、やはりわたしは認めません。 まだ判断能力が十分に備わっていない子供にとっては、まともに性や愛と向き合うことができず、心身に傷を残す可能性が高いと思うからです。
しかしその一方で、倫理観や社会通念を超越した領域に存在するのもまた、性や愛です。
思案のほかと申しますが、惹かれてはいけない人とわかってはいても、どうしようもない思いがあります。この小説の主人公ー明らかに作者の嶽本野ばら氏をイメージして造られている人物ーは、そもそも相手がそこまで幼かったとは、週刊誌に暴かれるまで知りませんでした。
そして彼は、彼女の仕事に向き合う姿勢に尊敬の念を抱いていたのです。口下手で思いを言葉にするのが苦手、と悩む彼女に、主人公は言います。着せられたスタイルに違和感を覚えたら、君はきちんとスタッフにそれを伝えている、立派なプロ意識のあるモデルだ、と。
何故かは説明できなくとも、着せられた服に対し「これはロリータではない」とはっきりわかる感性の鋭さ、そしてそれを臆せずにスタッフに主張する強さ。
ファッションやスタイルというものを蔑ろに扱うなど許せない、それどころか何よりも大切にしてきた主人公のことです。彼女がモデルとして撮影の場で示した、これ以上の美点は彼にとってないでしょう。
互いに同じものを愛し、その誇りを守り通せることがわかったのです。彼女は、あまりにも特別な存在として、彼の中にしっかりと固定されてしまいました。
彼が彼女の年齢を知ったのは、随分あとになってからのことでした。
恋愛関係になってはいけない人を、その人を守るためにも、より強く思い続ける。
その哀切やロマンチシズムが、無邪気な彼女と振り回される主人公のポップな応酬を織り交ぜながら、丁寧に描かれています。
最後に、疑問点もあります。
それは小学生の娘が一人でホテルに宿泊することを、なぜ両親は許容していたのかということです。
読んだ限り、決して放任主義とか娘に無関心という親ではないようなのです。二人の仲が発覚した後、母親は彼女に、もう主人公と会ってはならないと命じますし、以降は母親同伴で ホテルに宿泊することと決められた描写があるからです。
かなりのんびりしていて、危機感の希薄な家庭なのかもしれません。週刊誌に記事が載って、初めて危険を悟り、それ以後は娘の身辺に注意を払うようになった…ということでしょうか。
主人公に、小学生と気づかせないまま彼女と関係を深めさせる必要があったので、無理のある設定になったのでしょう。 この点を工夫して、自然な状況で書かれていれば、より良かったと思います。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
後編に続きます。
ご挨拶
このたび、生まれて初めてブログを開設しました。
初心者で分からないことばかりですが、私なりに日々の暮らしや思うことについて綴って参りたいと思います。
趣味は旅行と読書、美術鑑賞です。ひとりで色々なことを考えながら、ぶらぶらするのが好きです。
好きな作家はジェイン・オースティン、獅子文六、嶽本野ばら、よしもとばなな、夢野久作、森茉莉、ドストエフスキー、三島由紀夫、村上春樹、ハーラン・エリスン、五木寛之、ステファン・グラビンスキ、村田沙耶香、ミュリエル・スパーク、宮沢賢治などです。
好きな画家はジョルジョ・デ・キリコ、マックス・エルンスト、ジョアン・ミロ、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ 、レメディオス・バロ、竹久夢二、オーブリー・ビアズリー、カナレット、中原淳一、バルテュス、ギュスターヴ・モロー、ズジズワフ・ベクシンスキー、レイモン・サヴィニャック 、サルバドール・ダリ、ルネ・マグリット、パブロ・ピカソ、ワカマツカオリ、サンドロ・ボッティチェリなどです。
行ってみたい国は台湾、フィンランド、ブータン 、デンマーク、イギリスです。
これまでの旅行で特に心に残っている情景が、いくつかあります。
夜の神戸の中華街に並ぶ、赤味の強い提灯。
お台場のショッピングモールの、地底湖のような神秘的な空間。
金沢の武家屋敷の池で緩やかに泳ぐ、薄黄色の立派な鯉。
苦労して登った米子城趾の端から、その高さにどきどきしつつ下を見下ろしたこと。
桂浜の波打ち際で夢中になって眺めた、岩に激しく躍りかかる潮のしぶき。
これからもたくさん旅をして、刺激的で美しい光景を心に蓄えてゆきます。
皆様、どうぞこれからよろしくお願いいたします。