小さな書斎と、無限の世界

読書と美術鑑賞が好きなある人間の、暮らしと想いを綴ります。

【書評】『ロリヰタ。』嶽本野ばら(前編) 

皆様、こんにちは。

いこいのさとです。

いかがお過ごしでしょうか。

嶽本野ばら氏の『ロリヰタ。』を読みましたので、前編と後編に分けて感想を綴りたいと思います。

核心や結末にふれることもあるかと存じますので、この作品をまだお読みになっていない方はご注意ください。

この本には表題作のほかに、『ハネ』という短編が収められています。

前編で表題作、後編で『ハネ』についての書評となります。

ロリヰタ。』のあらすじ

   

主人公はある若手の男性作家。ロリータファッションに造詣の深い彼は、「乙女のカリスマ」と称され、若年層の女性たちから絶大な支持を集めています。

 

あるとき、主人公は一人のモデルの女の子と出逢います。年の頃は20歳になるやならずと思われる彼女は、ロリータファッションを特集する雑誌の撮影に臨んでいる最中で、スタイリストがコーディネートしたロリータテイストの衣装に身を包んでいました。しかし、彼女はこれははロリータではないと言い張り、撮影を頑強に拒むのです。ロリータに通暁する主人公は、その場で巧みにコーディネートし直してみせ、彼女は出来栄えに満足した様子を見せます。主人公のおかげでスムーズに撮影は終了します。

 

この出来事をきっかけに親しくなった二人は、連絡先を交換し、メールのやりとりをするようになりました。彼女は、撮影の仕事のためホテルに宿泊するたび、主人公を呼んで共に時間を過ごします。肉体関係はなく、キスをしたり、手をつないだりするだけ。睡眠薬を手放せない主人公は、彼女と一緒の時だけは、それも飲まずに安心して熟睡できます。

 

そんなある日、主人公は衝撃の事実を知ります。なんとそのモデルの彼女は、9歳の小学生だったのです。彼女と親密に過ごす姿を写真週刊誌にスクープされてしまい、袋叩きにあう主人公。正直に思いを綴った弁明の文章を発表するも、曲解されてしまい、世間からのバッシングはやみません。

彼女に恋をしていると自覚した主人公でしたが、こうなっては、もう二度と逢うことは出来ません。それでも、彼女は必死で彼を求めるメールを送ってきます。苦しい選択を迫られた主人公は…。

【書評】

考えさせられる小説でした。 

成人と小児の性愛は、やはりわたしは認めません。 まだ判断能力が十分に備わっていない子供にとっては、まともに性や愛と向き合うことができず、心身に傷を残す可能性が高いと思うからです。

しかしその一方で、倫理観や社会通念を超越した領域に存在するのもまた、性や愛です。

思案のほかと申しますが、惹かれてはいけない人とわかってはいても、どうしようもない思いがあります。

 

この小説の主人公ー明らかに作者の嶽本野ばら氏をイメージして造られている人物ーは、そもそも相手がそこまで幼かったとは、週刊誌に暴かれるまで知りませんでした。

そして彼は、彼女の仕事に向き合う姿勢に尊敬の念を抱いていたのです。

口下手で思いを言葉にするのが苦手、と悩む彼女に、主人公は言います。着せられたスタイルに違和感を覚えたら、君はきちんとスタッフにそれを伝えている、立派なプロ意識のあるモデルだ、と。

何故かは説明できなくとも、着せられた服に対し「これはロリータではない」とはっきりわかる感性の鋭さ、そしてそれを臆せずにスタッフに主張する強さ。

ファッションやスタイルというものを蔑ろに扱うなど許せない、それどころか何よりも大切にしてきた主人公のことです。彼女がモデルとして撮影の場で示した、これ以上の美点は彼にとってないでしょう。

互いに同じものを愛し、その誇りを守り通せることがわかったのです。彼女は、あまりにも特別な存在として、彼の中にしっかりと固定されてしまいました。 

 

彼が彼女の年齢を知ったのは、随分あとになってからのことでした。

恋愛関係になってはいけない人を、その人を守るためにも、より強く思い続ける。

その哀切やロマンチシズムが、無邪気な彼女と振り回される主人公のポップな応酬を織り交ぜながら、丁寧に描かれています。

最後に、疑問点もあります。

それは小学生の娘が一人でホテルに宿泊することを、なぜ両親は許容していたのかということです。

読んだ限り、決して放任主義とか娘に無関心という親ではないようなのです。二人の仲が発覚した後、母親は彼女に、もう主人公と会ってはならないと命じますし、以降は母親同伴で ホテルに宿泊することと決められた描写があるからです。

かなりのんびりしていて、危機感の希薄な家庭なのかもしれません。週刊誌に記事が載って、初めて危険を悟り、それ以後は娘の身辺に注意を払うようになった…ということでしょうか。

主人公に、小学生と気づかせないまま彼女と関係を深めさせる必要があったので、無理のある設定になったのでしょう。 この点を工夫して、自然な状況で書かれていれば、より良かったと思います。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

後編に続きます。